独立開業や起業をする際には様々な準備や手続きが必要となります。
独立開業後、起業後に発生した費用は全て会計ソフトに記帳して経費として計上することになります。一方で、独立開業前、起業前に発生した費用についても一定の要件を満たすことで経費として計上することができるようになります。
それが開業費です。
今回はそんな開業費について、どのような費用が開業費となるのか、開業費はどのような処理を行えばいいのか、徹底解説します。
- 個人事業主として独立開業しようと考えている
- 起業して法人を立ち上げようと考えている
- 会計事務所に勤務していて開業費について知りたい
Contents
開業費とは
開業費とは、開業日や起業日までに発生し、開業や起業の準備活動のために使った費用のことです。
開業や起業の準備のためには様々な費用が発生します。そのため、開業費には特別の取扱いが定められており、開業や起業後に経費として収入から控除することができます。
これは、開業費に関連する支出は、開業後も長期に渡って影響を与えるという考え方によるものです。
なお、開業費は税法の条文では以下のように規定されています。
開業費(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)
所得税法施行令:第七条一項一
開業費(法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)
法人税法施行令:第十四条一項二
個人事業主の場合の開業費
開業費の範囲
個人事業主が独立開業する場合、基本的には開業に関するすべての支出を開業費として計上することができます。
具体的には、開業費の対象例は以下の通りです。
- 事務所の家賃
- 水道光熱費
- 開業のためのセミナー参加費用
- 開業調査の旅費交通費
- 打ち合わせ費用
- 借入金に関する開業までの期間の利子
- 広告宣伝費
- パソコンなど備品購入費用
- 書籍購入費用
- 名刺や印鑑などの備品代
- 従業員の採用費用や給与
- 業務に関連する各種交通費
開業費の仕訳
開業費は会計上固定資産の繰延資産という科目で計上します。
仕訳の日付は開業日に一括して計上し、その後償却処理を行っていきます。
その際に摘要欄に実際の支出日や内容を記載しておくとわかりやすいでしょう。
具体的な仕訳を紹介します。
例1:開業前に広告宣伝用のチラシ10,000円を購入した場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 10,000 | 元入金 | 10,000 | 2022年12月10日支払い、チラシ広告宣伝費 |
例2:開業前にセミナーに5,000円で参加した場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 5,000 | 元入金 | 5,000 | 2022年12月5日支払い、開業セミナー参加費 |
開業費として計上する項目については、会計上は全て「開業費」として計上します。
開業費の相手勘定科目は「元入金」で処理します。これは個人事業の場合の資本金のようなものです。開業前はまだ現金預金がないので、全てこの元入金という科目で処理を行います。
個人事業用の支出を立替払いしているようなイメージです。
開業費の償却
開業費を経費として控除するためには、開業費の償却処理を行います。
これは固定資産として計上した開業費と、費用に振り替える処理のことです。
開業費だけでなく、固定資産全般における処理方法なので覚えておくと良いでしょう。
具体的な仕訳を紹介します。
例:開業費15,000円について全額当期に経費計上するため償却を行った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費償却 | 15,000 | 開業費 | 15,000 | 開業費の償却 |
開業費の償却は、「60ヶ月の均等償却又は任意償却」と規定されています。
ここで注目すべきは任意償却です。任意償却はその名の通り、各人の任意のタイミングで償却することができます。つまり、所得の多い年度を狙って償却して所得を圧縮、つまり節税をすることができます。
費用をたくさん計上すればその分納める税金を減らすことができるので、上手く用いれば非常に節税につながる使い方ができそうですね。開業前に発生した支出は開業費としてしっかりと漏れなく計上し、是非とも節税に繋げていきましょう。
法人を起業する場合の開業費
法人の開業費の範囲
法人の場合、個人事業主の開業費とは異なる点があります。
法人を起業する際の開業費は、「法人設立登記後、事業を開始するまでに開業のためだけに特別に支出した費用」として定められています。
事業に関するあらゆる支出が開業費として認められた個人事業主と比べ、開業費として計上できる範囲が限られている点が特徴です。
具体的な開業費の対象例は以下の通りです。
- 会社のホームページ作成などの広告宣伝費用
- 事務所の礼金
- 事務所の机や椅子などの器具備品
- エアコンなどの備品類
注意すべき点は、事務所の家賃や水道光熱費は開業費に含まれないという点です。法人の開業費は、開業のために「特別に」支出した費用なので、家賃や水道光熱費といった毎月発生するような費用は「特別に」支出した費用とは認められないのです。
法人の開業費の仕訳
法人の場合の開業費の仕訳は個人事業主の場合と同様に、開業費という名称で、固定資産の繰延資産として計上します。
一方で、法人の開業費は法人設立登記後の処理となり、既に現預金が資本金として計上されているため、元入金ではなく現預金や未払金として処理します。
例1:開業前に広告宣伝用のチラシ10,000円を翌月払いで購入した場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 10,000 | 未払金 | 10,000 | 2022年12月15日購入、チラシ広告宣伝費 |
例2:開業前にセミナーに5,000円現金払いで参加した場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 5,000 | 現金 | 5,000 | 2022年12月5日支払い、開業セミナー参加費 |
法人の開業費の償却
法人の開業費の償却は、個人事業主の場合と同様になります。
こちらも償却期間は「60ヶ月の均等償却又は任意償却」となります。
そのため、法人の場合においても所得が多額に計上された年度に償却をすると良いでしょう。
例:開業費15,000円について全額当期に経費計上するため償却を行った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費償却 | 15,000 | 開業費 | 15,000 | 開業費の償却 |
開業費を計上する際の注意点
開業前どのくらいの期間まで対象となるか
開業費は開業前の支出が対象となっており、具体的に対象期間が明確化されているわけではありません。
一般的には、開業前6ヶ月〜12ヶ月くらいまでが開業費として認められる対象期間と言われているようです。
あくまで開業に直接的に関係する支出が対象となるため、何年も前の支出などはその因果関係を証明することが困難になるかと思われます。
なお、法人の場合は設立登記を行ってから事業をスタートするまでの期間に発生した支出が開業費として計上されるものであるので、個人事業主よりも対象期間が明確化されます。
開業費に含まれないもの
個人事業主の場合、開業前の支出は基本的に開業費に含むことができると紹介しましたが、開業費に含めることができない支出もあるため注意が必要です。
具体的にどのような支出を開業費に含むことができないか紹介します。
10万円以上の固定資産
パソコンやエアコンなどの器具備品について、取得価額が10万円以上のものについては開業費ではなく、固定資産として計上します。
固定資産も毎期減価償却を行い費用計上することになりますが、開業費のように任意償却は認められていないため、特定の年度に一括して償却することはできません。
商品の仕入代金
最終的に販売する目的で購入した商品については、対象商品が販売され売上が計上されたタイミングで売上原価として計上されます。そのため開業費に含めず、当初は仕入や棚卸資産として計上します。
敷金や礼金
敷金は後日返還される性質の支出であるため、そもそも経費として計上することはできません。敷金や差入保証金として投資その他の資産区分に計上されます。
礼金は敷金と異なり返還されない支出ではありますが、開業費とは異なる取扱いとなり、長期前払い費用として計上され、毎期費用処理されていきます。
消費税の取り扱い
令和5年10月1日よりインボイス制度が施行される予定であり、独立開業や起業した最初の年度であっても課税事業者となる方が増加するものと見込まれます。
開業費については、課税仕入として分類される支出が多く、ここで論点となるのが開業費にかかる消費税の取扱いです。つまりは、開業費にかかる仮払消費税は消費税の計算上仕入税額控除として処理することができるのかという点です。
この点、消費税基本通達に以下のように規定されています。
創立費、開業費又は開発費等の繰延資産に係る課税仕入れ等については、その課税仕入れ等を行った日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるから留意する。(平19課消1-18により改正)
消費税基本通達:11-3-4繰延資産に係る課税仕入れ等の仕入税額控除
つまり、対象となる開業費を支出した年度であれば仕入税額控除に含めることができるということです。
具体的な例で紹介します。
①開業日が令和5年10月1日の場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 10,000 | 元入金 | 11,000 | 令和5年9月15日支出、チラシ作成費用 |
仮払消費税 | 1,000 |
→仕入税額控除に含めることができる。
②開業日が令和5年1月1日の場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 11,000 | 元入金 | 11,000 | 令和4年12月15日支出、チラシ作成費用 |
→仕入税額控除に含めることができない。
上記の通り、開業日を年初としてしまうと、開業費の支出年度と開業後の消費税の課税期間にズレが生じてしまうこともあり、その場合開業費を仕入税額控除に含めることができなくなってしまうため留意が必要です。
領収書などの証憑をしっかりと保存しておく
他の費用計上した支出と同様に、開業費についても領収書といった関連証憑を適切に保管することが重要となります。
特に開業費は開業に関連することが明確にわかる必要があるため、仕訳の摘要欄や証憑にどういった支出なのか内容を明確に記載しておくことが望ましいです。
おわりに
開業や起業準備には何かとお金がかかります。
今回紹介したように、開業前や起業前に発生した費用は開業費として計上しておくことで節税につなげることができます。
開業や会社経営をすると、最初はなかなか売上をあげることも難しいので、特に最初はキャッシュを保持することが非常に重要となります。ここで開業費の償却を行い節税をしないと税金として持っていかれるだけなので、非常にもったいないことになってしまいます。
税金に関係する事項は基本的に自分から申請や手続きをしないと対応してもらえません。知っているのと知らないのとでは、大きく手元に残るお金が変わってきてしまうのです。
開業前から戦いは始まっています。しっかりと知識を身につけて記録に残し、開業費として計上してなるべく多くのお金が手元に残るようにしましょう。
どこかの誰かのお役に立てば幸いです。